沈丁花の春のかおりも、ぽっかり浮かんだ夏の雲も、紅葉した木々の彩りも、
ひんやりした冬の風も、変りなく繰り返しやってくる。
そのような日々に、私は新鮮な喜びと感動を覚える。
そんな日常の何気なく感じたことを1本の線に置き換える。画面に向かって繰り返し引く。
好きだけでは続かないのだろうなと思いつつも、もう20年以上描き続けている。私の生きてきた証であり、糧でもある。
「ものを見て描くこと」は自分を写し取ることである。それは、版から紙へとインクが刷られる版画のプロセスにもつながる。
プレスを通し、インクが紙へと移し取られる瞬間、版画特有の緊張感がほとばしる。
版にすることにより、かたちや線が単純化される。
白い紙に刷られた墨からは、色彩を放たれ輝きを見せる
描きたいと思ったものを描き続けることが、私のエネルギーと変化する。そのエネルギーは1本の線に変化し、版へと刻まれる。
(笹井祐子)
朝日新聞「朝日歌壇俳壇」挿絵(2006年)、集英社「すばる11月号、12月号」挿絵(2008年)、
笹井祐子、秋元貴美子作品集「風のおとずれ」、「石」を中心に版画作品を30点展示予定。 10月31日(金)−11月11日(火)2008